雀荘のアウトという恐怖のシステム

■雀荘のアウトという恐怖のシステム

 麻雀をたしなんでいる方々の中には、「アウト」というものについて聞き覚えのある方も少なくないだろう。
 なんのことかといえば、店側に対する借金のことだ。

 最もよくあるケースとしては、例えば財布に5万円入れていったとして、
 思いのほか負けてしまって、残り数千円足りない、という場合、
 次回来店時に返すので、すこし店から出しておいてほしい、と客からお願いされるパターン。

 店側も、フリーにおける支払いが正しく行われるために、出さざるを得ない。

 まぁ、たいていは千円単位の額で、アウトを出す時も、
 どうしてもいま不足分を用意できないという場合なので、
 それほど気にとどめるようなことでもない。
 それに、そういう人は、次回の来店時にきちんと返済してくれるものだから。

 厄介なのは、フリーに来ているというのに、現金も持たずに、アウトだけで麻雀を打とうとする不届き者だ。
 いやいや、それはおかしいだろう、と待ったを掛ける人はきっとこういうだろう。
 「そもそも、そんなやつにお金を貸して打たせる義理なんてないはずだ」
 至極ごもっとも。当然、店側からしても、きちんと預かりを入れて打ってくれる方が、望ましい。

 しかし、大手チェーン店などではなく、地方に点在する小規模な個人営業店の場合、
 そんな人にアウトを出してでも打ってもらわなければ、卓が立たない、というケースも少なくない。
 せっかく麻雀を打ちに店にやってきてくれている人に、卓が立てられないから少々お待ちください、
 もしくはお帰りください、とは、口が裂けても言えるものではない。

 そして往々にしてそういう客は、やはり麻雀も弱い。

 そういう客も、もともとはきっちり預かりを出して麻雀を打っていたのだが、
 負けに負けが重なって、どうしてもアウトに頼らざるを得なくなり、
 店側も、「常連だから……」という理由で、仕方なくアウトを出す。そして、たいてい負ける。
 そうこうしている内に、アウトの額は積み重なり、気づけば10万、20万、ということも、珍しいことではない。

 こうなると、その客の心境にも変化が訪れてくる。

 自身の財布から預かりを出して麻雀を打っている間は、負けの痛みは確実に自分のものだ。
 しかし、店に出してもらったお金で打って負けた痛みは、直接当人には響かない。

 もちろん、最終的には自分の負債なのだから、痛くないはずはないのだが、
 アウトが積み重なり積み重なりすると、20万の負債に対しての1万円の負けには、もはや痛みが麻痺してしまうのだ。
 ただでさえ、一度店を経由して間接的に伝わる痛みなのだから、なおさらのことだ。

 現金の、現在価値と将来価値という話を思い出すが、負債についても同様のことが言えてしまうのだ。

 ちなみに、このアウト制度、なんとメンバーに対しても適用されてしまう。

 例えば、給料が25万出ているメンバーが、本走で30万負けてしまったとする。
 この時、5万円の不足が出る。これをアウトオーバーと呼ぶのだが、キャッシュでそのメンバーが5万円の不足を埋めることができたなら、
 何も問題はない。(給料がマイナス5万円という問題はどうしようもないが)

 それが支払えなかった場合、この5万円の負債は来月に繰り越される。

 ところで、人間ひとりが一か月の間生きていくのに、いくらくらいかかるだろうか。
 住居、食料、通信費……などなど、かなり安めに見積もったとしても、最低5万円。都市部なら、10万円近くかかるかもしれない。
 5万円の負債も払えないような人間が、果たして、その費用を捻出できるだろうか。

 当然、不可能だ。

 となれば、借金するしかない。
 この場合、その貸主は、経営者となる場合がほとんだ。
 というのも、経営者側からしても、雀荘メンバーにはできるだけメンバーとしての仕事を続けてもらいたい。
 どこの雀荘も慢性的にメンバーの数が不足しているためだ。

 そして仮に、ひと月の生活費5万円を借り入れしたとして、
 その負債がアウトに回る。

 来月時の給料が、最低10万円を上回っていれば、そこで相殺できるのだが、
 そのメンバーが再び、運悪く(?)同様の赤字で終了してしまった場合、
 やはり同じことが繰り返される。

 そうして、メンバーのアウトも、どんどんどんどん増えていってしまう、という訳だ。

 むろん、経営者サイドからしても、その分の現金が手に入っていないのだから、
 メンバーの定着と生存を喜んでいる場合ではない。

 最後に、最も性質の悪いのが、
 そういう客やメンバーが、行方をくらましてしまうことだ。

 当然、経営者も細心の注意を払っているが、どうにもならない時もある。
 そうなったら、その客やメンバーを補足するまで、貸し付けた現金は戻ってくることはないし、
 仮に捕まえたところで、果たして返済能力があるのか、怪しい話ではある。


 アウトというのは、経営者も客も不幸にする、おぞましいものだ。
 ふつうの借金と違って、百害あって一利なしな点は、その借金に流動性のないところだ。
 店からお金を借りている、と言っても、その財布は結局オーナーのものであり、
 傍から見れば、個人間の金の貸し借りに過ぎない。

 諸君も、フリー雀荘に行く時には、ゆめゆめアウトというものを付けることなかれ!

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